11月21日(木)~26日(火)まで開催の北陸初の香林坊大和「鈴木英人の世界展」で展示販売する作品の紹介です。
本日は、展示販売する版画の紹介、パート1です。展示会場でのみ購入可能な作品も多数あります。
ご来展お待ちしております。

1.「EMERALD SHAKE」

SIZE: 478×671mm 1990年 リトグラフ エディション数:75
額装価格:750,000(税別)※展示会場のみ販売作品

EMERALD SHAKE

「旧型のバートラムなんか描いちゃって、結構いいじゃん」とぼくの友人のT君はつぶやいた。
典型的な南方の入江といった風景ですが、T君は船(ヨット)の 専門家なので、船からこの絵に入ってきました。
アメリカより南方の島々のリゾートしている入江の典型でしょう。ピンクのホテルは、マイアミのアールデコ 風、またキーウエストのパパ・ヘミングウェイ・コロニアル風とでも言いましょうか、こんなところなら、ワニが生息していても不思議はないし、ウェットな空 気にまとわりつかれても不快感などという指数は現われない。

この光景もぼくが撮影したものではないがこんな風景のたくさんある所をいつも探している。この海を描くシリーズは40点以上を2年程描き上げるつもりでいる。
この絵のカリブ海も行きたいが、アメリカイーストコーストも再び訪れたい。そしてその足でヨーロッパにもまた行きたいと思っている。

T君がヨーロッパなど世界のヨットハーバーというテーマの取材旅行に出掛けると言っているが、ぼくもつれて行って欲しいと思っているくらいに、こんな美しい入江やハーバーを描きたいと思う日々なのです。

2.「SEA SIDE BAR」Normal Edition

SIZE: 479×670mm 1991年 リトグラフ エディション数:80
額装価格:650,000(税別)※展示会場のみ販売作品

SEA SIDE BAR

マイアミビーチシティから車で5時間程メキシコ湾上の長い橋を渡るとキイ・ウエストに着く。島内を一周するのに15分とかからない小さな島なのに、あらゆる事のなんと豊かなことか……と驚いてしまう。

逞しい観光業者が軒を並べて歓迎してくれる。フロリダ州最小の島にして最大の観光資源である。夕方の7時に島に着いた。

予約のホテルにチェックインを済ませて、さあ食事でもして、一杯やろうかとカメラマンのジュンスケに言うと「だめだよ!先に取材をしてからッ!夕方の一番いい光じゃないか!」とメシ抜きで働こうと、私を促す。
しょうがねえなプロはこれだから困ると思いつつジュンスケカメラマンの後を歩いて目標を探し始めた。歩き出すとウエットな熱帯的気候のせいで、私の体中から汗が吹き出して止まらない。
カメラのファインダーも汗でヌルヌルになる程だった。1時間程を汗まみれになってシャッターを押し続けた。ジュンスケの言った通りで、なんと最高の収穫に私は驚愕する程にわなないた。
ホテルの部屋に戻ってから、ジュンスケカメラマンに感謝の意を表して深く頭を下げた。

翌日はスコール、そしてその次の日も雨まじりの曇天だった。3日目にも夕方の貴重な光を与えてくれたジュンスケカメラマンにまたしても両手を合わせて合掌をした。

この光景は、スコール続きの合間に撮ったホテルのバーなのだ。

3.「THE BOAT WITHOUT LIFE SAVER」Normal Edition

SIZE: 479×670mm 1991年 リトグラフ エディション数:80
額装価格:650,000(税別)※展示会場のみ販売作品

THE BOAT WITHOUT LIFE SAVER

波打ち際にボートが打ち上げられているので、面白い絵になるかなと思った。ジュンスケ・カメラマンが私に見せてくれたオーストラリアの海岸でのワンショットを描かせてもらった。
ライフ・セイバーが4~5人乗っていて、ちょうど岸まで来て飛び降りた様子が映っていたが、男らしい波とボートの美しさの犠牲となって消えて頂いた。
またボートが動いている状態なので、波と光に生き生きとしたボートが描けたのでお気に入りの一枚となっている。

4.「THE BOAT IN THE SUN」Normal Edition

SIZE: 478×670mm 1991年 リトグラフ エディション数:80
額装価格:650,000(税別)※展示会場のみ販売作品

THE BOAT IN THE SUN

たくさんの美しいボートが運河の岸辺に係留されている。マイアミの運河の街、フォード・ローダディールを歩いている。
水路の水は澄んでいて、青空を反映した水面は、その周囲の風景を映し込んで美しく輝いている。いくつもに連なっている高級なプレジャーボードを横目に見ながら、長いマイアミ取材の最後の日 を、ゆったりとした歩調で美しい運河のプロムナードを堪能している。
私はこんな時に自分の過去と、未来を考えることにしている。30才の頃に戻って、自分にとっての絵の原点とはいったい何だったのか、そして、これから、どのように変わって行くのかなどと、頭の中を充実した安堵感と、何か寂寞としたイリュージョンが入り混り、巡っていく。
原点に戻りたい。何もなかった頃の日々に戻りたい。私の体中が、清流の中に居たような、痩せてはいたけれど、血液がサラサ ラと早く流れ、淀みなく脳を巡り、いつも風に向かって歩いていたあの頃に戻りたい……。といつもそこへ到達してしまう。

何か、若い時に描かなくてはならなかった、大切な作業を、し残して来たような不安が心の透き間に侵入してきて、私の耳元に戻れ戻れ、そうして、もう一度その作業をしてから、帰って来いよと 囁いてくる。

シンプルなボートが目の前に現われた。白い簡単な幌が妙に印象的だ。多くの高級な船を見て来たので、何だか拍子抜けしてしまうような素朴さだが、私はこの小さなボートに心打たれた。

美しい木漏れ日の中に私は、今歩いてきて巡った幻影の答えが、ここにあるのではと思った。何か答は出ないし、やり直すために過去を歩くことなど出来ないが、この目の前の小さな白いボートは、私の心を強く揺り動かした。

5.「ALLEYS AT HAMILTON BEACH」

SIZE: 342×480mm 1991年 リトグラフ エディション数:190
額装価格:400,000(税別)※展示会場のみ販売作品

ALLEYS AT HAMILTON BEACH

1950年代のアメリカで大いに猛威を振るった、インダストリー・デザインにストリーム・ラインという様式がある。直訳すると”流線形”ということになるが、アメリカの50’Sのそれは、ちょっと違うどころか、大きく異なっていた。

アメリカの青春時代の、奢り高ぶる物質経済と資本家の考えるアメリカン・ドリームを、そのまま表現した様なこの不思議な魅力を放つ流線形は、魅了する無駄とでも言おうか、とてつもなく派手やかで、賛沢さに溢れていて、面白い。

この車もその魅了してやまない無駄の代表的なヤツだ。大排気量(6,000cc以上)の低速トルク型エンジンは、2.5トンもありそうな無駄をたやすく振り 回してしまう程、パワフルな走りを見せてくれた。
ガソリンも日本車の10数倍を使って、同じ距離を走ることになっていた。そんな無駄が魅了してやまない車 に、昔乗っていたことがあると、この絵を見た50年配の男性が泣いているのを展示会の会場で見たことがる。
アメリカで働いていた時代を思い出したのだそうだ。きっと、楽しいことばかりではなかったアメリカで、いつもこの車に乗っていたのかもしれない。アメリカの無駄が、情緒をその男性に残してくれたのだ。

このALLEYS AT HAMILTON BEACHは、展示会に来場して、想い出の涙を流してくれた男性の手元に、数日後に届いたそうだ。

6.「ISLANDS OF BAHAMA」

SIZE: 342×480mm 1991年 リトグラフ エディション数:190
額装価格:400,000(税別)※オンラインショップで購入可

ISLANDS OF BAHAMA

バハマのナッソーで取材を始めたその日に、きっとこんなことになるだろうと思ったことが、やはりおきた。
何人かの乗り合いボートで、バハマの小さな島に行って楽しむツアーという良くあるやつにヨセばいいのに乗ってしまったからだ。
10人程の若いカップルと我々カメラを持った男カップルが異様な視線を浴びながら島に向かったのだった。
我々の大いなる不安は的中!小島はホントに小さくて、50人も岩に座るともう足の踏み場もない程小さくて、「なにコレー!」 と二人は思わず声を発したのだった。
10人のカップルはさっさと降りてバーベキューとスキンダイブを目的通りに達成しようと楽しそうだが、二人の男達はどうにもならずにボートのオーナーに泣きを入れた。
チャーターボートのオーナーは我々の悲しみを理解して、ふたたびナッソーに戻ることに決定を下し、追加料 金を支払ってもらって、二人の変な男達の為に、またしても海へボートを出したのでした。

かくして二人の男達は翌日は、そのオーナーのすすめで水上飛行機ま でチャーターをして、大いに旅を満喫したのでした。

7.「A PRIVATE BEACH JUST FOR COUPLE」二人のためのプライベートビーチ

SIZE: 505×693mm 1992年 リトグラフ エディション数:150
額装価格:500,000(税別)※展示会場のみ販売作品

A PRIVATE BEACH JUST FOR COUPLE 二人のためのプライベートビーチ

バハマ諸島の有名な港町ナッソーに着いた。初めてのバハマ旅行なので少々興奮気味になっていた。
島民と旅行者がダウンタウンに群がっていて、信号が赤になると人間がどっと道を渡って賑わいを加速させている。
当然のことながら大渋滞を引き起こして、たちまちにして亜熱帯の風が街の喧騒の小さな塵と埃も一緒に舞い上げて空中で白濁色に光らせている。

島は音楽が好きだ。リズムは街を支配していて、店や道行く人々の手にしたラジカセや対向車の車窓から強烈に私に襲いかかる。決して嫌味はない。むしろ体がリズムに合わせて動いてしまう。
渋滞する車のクラクション。強烈なリズムと島民の黒い皮膚の香りが性的な興奮に私を誘いたがっていた。
ようやく街のハズレに30分程かかって移動して、ホッとして目に入って来たのがコンチ貝の街頭販売だった。真黒で真白な歯が笑って、貝を手にして私に見せる。貝は大きくて貝殻の口は濃いピンク色をしていてエロティシズムそのものを感じてしまい、体の力がスーッと抜けていくのが感じられた。
刺激的なリズムや光景を静かに笑いながらやり過ごした私はホテルに着くと疲れて眠ってしまった。私が仮眠を取っている間にコーディネーターをしてくれ たカメラマンのJ君がホテルの前のプライベート・ビーチに行って来たと言いながら帰って来た。
目を覚ました途端の最初に耳に入った言葉が、この美しい響き を持ったプライベート・ビーチという言葉だったので気分が良くなり、私も浜へ行くことにした。
夕方に近い砂浜は、何もかもが美しかった。完全な美しさが、あたり前のようにそこにあった。
またしても体の力が抜けるのがわかる。そしてそこに佇んでいる私に、いま何かが不足しているなと感じさせるぐらいに美しかった。
穏やかな長い坂を赤味がかった夕陽が、ゆっくりと降りて来て、砂浜に黄色く輝いて、今まで花で遊んだ人々の足跡が微かな風で丸く削れて、美しいパターンを見せてくれる。
旅の醍醐味はこういう風景に完全に入ってしまうことなのではないだろうかと思う。

そんな時に私に不足していたのは恋愛という情熱だったのかもしれない。
いや美しい女性だと思った方もいるかも知れないが、それはやはり形にすることの出来得ない恋愛という情緒だったのだなといまは想う。
ナッソーでの一日目に私はどうかしていた様だ。ダウンタウンの喧騒になかで空中に紛れ込んで仕舞った島民の使う怪しい媚薬でも、知らずに吸っていたのかもしれないなと思った。

8.「MAGGIE JOE Vintage Edition」マギー ジョー

SIZE: 504×670mm 1993年 シルクスクリーン エディション数:150
額装価格:550,000(税別)※オンラインショップで購入可

MAGGIE JOE Vintage Edition マギー ジョー

私も一度大き目のプレジャー・ボートを持ちたいと思ったことがある。
数年前に友人の薦めで大きなヨットのオーナーになることになった。オーナーといっても 共同だから、それぞれが約束事を作って守らなくてはならない。
そのかわり、費用は半分で済むことになるから、これは嬉しいことだ。
私の住んでいる逗子から ハーバーまで30分程車に乗らなくてはならない。初めて自分の船に乗りに行った時は少し得意になれて気分が良かった。朝9時頃に船に着くともう一人のオー ナーがすでに乗船していて、他にその友人の友人であるという人々が何人かいて、それぞれのお仕事をしていた。(準備)
そうこうしている内に、クルーが2 人、奥さんもつれてやって来た。更に4~5人が、「どうもー!」といって乗って来た。何と全部で13人になった。
エーッと思ったが最初だから仕方がないと思っていると、もう皆缶ビールを出して飲み初めているので、私も飲んだ。
酔いが回っていることに気付くと、もう船は沖へ滑るように帆走していて、アッと言う間にまたしても気分が良くなった。
ビールが3~5~6と進むに内に船が岸へ向かっているのが、理解できた。

船は岸から、300mぐらいに浮かべて釣りが 始まった。3本の釣り竿に13人の期待が集まっていたので、一生懸命釣ったので30匹程のメゴチが収穫できた。
夕方、ハーバーに帰って、すぐに魚の料理をして、またしても、ビールをたらふく飲んで、すっかり体中の血液が酸化してしまった一日だった。

ああ、日本人はいいなーと思った。日本にも数える程しか入っていないという高級なラグジュアリーな40フィートのヨットでも、日本人は最後まで日本人なのだなと感心してしまった。

9.「TWO FLOWERS」トゥー フラワーズ

SIZE: 680×943mm 1993年 シルクスクリーン エディション数:150
額装価格:930,000(税別)※展示会場のみ販売作品

「TWO FLOWERS」トゥー フラワーズ

私はこの作品が好きだ。1ケ月半もこの絵に没頭することが出来た。
ごく普通の構図だけれど、このモータークルーザーを非凡に見せる為にいくつもの苦労が待っていた。
右手前にある建物の入口を入れることで、クルーザーを身近なモノとして位置づけることが、非凡さを表現出来たと思う。
水面に映り込んだ建物やパーム・トゥリー、そして小さく位置づけた白いクルーザーを丹念に描いて行った。水面を大きく最大限広がるように注意を払って、映り込みの有様を一切の直線を用いることなく、複雑なジグソーパズルの様に丹念に描き込んだ。
ゆったりとした奥行きを表現する為に建物の入口へのステップを黄色味を帯た石畳を演出することで、入口が手前にグッと出てきて奥行が広がった。
色が少しづつ入って行く様子は、完成の充実感への期待が、いやおうなく高まってくるので、不安ではあるが、私にとっての至福の時となっている。

こんな日常に我身を置けたならと想う。
日常とは毎日のことなのだから、これは私の夢なのだ。2つの赤い花の 左側には、私の夢への想いを込めてあるが、もう1つがまだ空いている。

10.「VARIOUS DREAMS」バリアス ドリームス

SIZE: 523×672mm 1993年 シルクスクリーン エディション数:150
額装価格:810,000(税別)※展示会場のみ販売作品

バリアス ドリームス

頭の中味から清い血液以外の余分な不純物質を取り出す必要が生じたら、私は、こんな車をガレージから誘い出して丁寧に褒め上げて、こんな美しい車に乗れる 事を感謝しますと、殺し文句でとどめを刺す。
そうすると、黄色いスポーツ・ウェアのボディコンシャス娘は、喜々として美しいエンジン音を響かせてエナジーする。
私がドアに触れるともう走り出そうとして、カムシャフトのかん高い振動音を鳴咽して喜びを精一杯に表現した。
走り出せばもう100%全開のフル・スロットルで、彼女は急ぐ。
目的地は2人でひとつ、それぞれの夢を担いつつ、ふたりはひとつになって走ることで彼女は目的を達することが充分に出来たのだ。

やがて目的地に到達後、黄色いスポーツ娘は午後の優しい光の下で休息に入った。
放蕩のオーナーは待たせておいた白いドレスのプレジャーボードに吹い込まれる様に乗り込んだ。
白いドレスの美しい婦人は、優雅ではあるが、確かに速く、豊かに、大きな紺碧の海原へと滑り出す。

かくして、ラグジュアリーな午後の時 間が放蕩のオーナーにもたらされこととなった。
ああ、VARIOUS DREAMS純文学編。